様々なリスク
歯周病は歯茎(歯肉)の病気です。歯茎(歯肉)は結合組織という体を形作る組織(筋肉や内蔵など)からできています。歯周病になるとこの歯茎(歯肉)が腫れ出血してきます。この際の腫れの範囲は、もし中等度の歯周病に罹っていたとすると、口全体でだいたい手のひらと同じ位の面積に相当する範囲になります。ためしに手のひらを胸に当ててみればその広さが大変な広さであることがわかると思います。このように広範囲な炎症面積を持つ歯周病ですが、この炎症に影響を与える因子がいくつか考えられています。そのような主な因子としては喫煙、糖尿病、その予備軍となる肥満などがあります。
たとえば喫煙ですが、喫煙者は歯周病を"発症しやすく"、またひどくなりやすく、治療しても治りにくいことがわかっています。歯周病は歯垢(プラーク)により引き起こされますが、喫煙者の場合は通常に比べて炎症が見えにくくわかりにくいのです。このことが歯周病の発見を遅らせ、結果として発症率を高めることになるのです。ある研究によると、歯周病にかかる危険性は1日10本以上4~5年喫煙していると3~4倍に、10年以上吸っていると5倍以上となり、重症化しやすくなると報告されています。
また、糖尿病も歯周病と関係の深い病気の一つです。糖尿病に伴う白血球免疫細胞の機能低下、血管の障害、代謝障害などが歯周病の重篤度に深く関係しているからです。糖尿病患者の体の内で蓄積されてくるある種の蛋白質が免疫細胞を刺激することでたくさんの生体物質が産生されます。この生体物質が歯周病の炎症を強める働きを持つことが最近になりわかってきました。そのため、歯周病は腎症(腎機能障害)、網膜症(視力低下)、神経症、大血管障害、小血管障害の慢性合併症に次ぐ、糖尿病の第6番目の合併症とも言われるようになってきているのです。
そして近年では、歯周病による歯肉の炎症自体が、糖尿病を悪化させる要因のひとつになっているとする報告が見られるようになってきました。これは、歯周病の炎症によって生じたさまざまな物質や歯周病菌が産生する毒素が血液中に入り込み、インスリンの機能を障害しているためだと考えられています。
その他には、HIV感染、骨粗鬆症や閉経後の女性の受けるホルモン補充療法との組合せ、遺伝的因子などもリスクとして考えられています。
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歯周病はプラーク細菌による攻撃に対して様々な宿主の応答をおこすが、その反応・進行経路に多くの因子からの影響を受ける。攻撃によって最初に起こってくる炎症免疫反応については近年ずいぶんと細かく研究が進み炎症免疫反応における多くの因子について遺伝しレベルでの解析も進んでいる。ここでは疾患進行と影響する因子との関係の概略をのべる。
プラーク細菌によるリポ多糖を始めとする病原因子が歯周組織内に侵入し、各種免疫反応を引き起こす。その後、病原刺激が高まると組織反応は進行しインターロイキンなどのサイトカイン、炎症性メディエーター、MMPsといった因子により結合組織と骨の代謝が起こってくる。そして結果として歯周疾患の臨床症状が強まってくる。
これらは人の体に備わった防御システムの結果であるが、その原則はシステムの目の届くところに敵がいることである。目の届く所にいるのでその敵に向かって攻撃ができるわけである。通常、ウィルスや細菌などの外来因子が体に侵入してきた場合は、まさに血液中あるいは結合織中に敵がいるわけであるから血流に乗ってやってきた免疫細胞や免疫性物質は敵のいる場所で血管から体内に出てきて外敵を攻撃する。しかし、歯周疾患の場合はこの点が特異である。外敵である細菌性プラークは歯の表面、つまり体の外にいる。血管の通じていない体の外にいて抗原因子や毒素だけを体内に送ってきている。体内に送られてきた因子により発動した免疫炎症システムは敵をもとめて大量の攻撃因子を歯肉の中に放出する。しかし、歯肉の中には敵はおらず、もちろん血流に乗って到達できる位置にもいない。では、放出された攻撃因子はどうなるのか、自分自身の組織を攻撃し破壊してしまう。タンパク質分解酵素により歯周組織は破壊される。つまり歯周疾患とは体の外からの刺激により自らによって自らの組織を破壊してゆく疾患なのである。進行すれば自分自身によって自分の歯槽骨をも破壊し歯を喪失させてしまうわけである。歯周疾患に罹患すると、プラーク細菌本体ではなくそこから放出される刺激物質やそれに反応した本来の敵に作用することのない免疫炎症性物質の両方が血流に乗って体内を駆け巡ることになる。このことによる全身への影響あるいは全身から受ける影響が歯周疾患を口の中だけの病気にとどまらない疾患としている理由である。
【参考文献】
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